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2026.01.20 ワイン

シャンパーニュの今昔 ―変わりゆく泡の哲学― 蓮實真知

グラスから立ち上る泡の美しさ、輝く黄金の色調に引き込まれ、口に含んだ瞬間、幸せになれる魔法のようなシャンパーニュ!この新年を祝う乾杯に、シャンパーニュを選んだ方も多いのではないでしょうか。

シャンパーニュとグラス

シャンパーニュ地方で発泡性のワインができたのは、1680年頃とされていますが、当初は意識的に泡を封じ込めたわけではなく、いくつかの偶然が重なってできた産物だと言われています。その後、イギリスに輸出され、高価なるが故、上流階級のワイン愛好家に喜ばれていました。100年前でも王侯貴族や上流階級の人々の飲み物として圧倒的なステータスをもっており、「特別な場面で口にする贅沢なお酒」とされていました。

それが、経済成長やグローバル化などの時代と共に、結婚式や勝利を祝う際などの乾杯のお酒として変化し、近年では、ブランド力の強い大手メゾンはもちろんのこと、自家栽培・自家醸造生産者(RM:レコルタン・マニピュラン)の「ストーリー」や「思想」に惹かれて後者を選んだり、用途に合わせて選んだりと、多くの人々に愛される飲み物へと変化してきました。

シャンパーニュ地方はフランスの中でも北部に位置し、長らく「冷涼な気候が生み出す高い酸」が特徴でしたが、近年は気候変動により環境条件が大きく変わり、テロワールにも、シャンパーニュの味わいにも変化をもたらしています。

まず、気温上昇が挙げられます。近年50年で、平均気温が約1.5度近く上昇し、ブドウの成熟が早まったことにより、収穫時期が3週間から1ヶ月近く早まり、8月下旬から9月初旬に収穫が行われることも珍しくありません。また、気温が高温になることで果汁中の酸が減り、糖が増加し、ブドウの熟度が上がり、近年では、ドサージュ(補糖)を少なくする傾向があり、より辛口のスタイルのシャンパーニュを造る生産者が増えてきています。

しっかりとした厚みのある、ふくよかな果実味を楽しめる、ゼロ・ドサージュ(補糖なし)のシャンパーニュに出会った経験がある方もいるのではないでしょうか。温暖化は脅威である一方、質的に成熟した果実をもたらす「チャンス」として積極的に捉える生産者がいるのも事実です。

気候変動により、春の遅霜の心配は少なくなったものの、夏の集中豪雨や干ばつの増加により、病害や水分ストレスの問題などもありますが、今ではブドウ樹の密植度や剪定方法の工夫や、有機栽培など様々な対処法が行われています。

シャンパーニュ地方では持続可能な畑作りのための環境認証(VDC認証)への取り組みも盛んで、2024年時点で栽培面積60%の畑が認証取得、2030年には全域100%が認証取得を目標にしています。また、オーガニック認証(AB認証)が約8%、ビオディナミが約1〜2%と少しずつではあるものの若手の小規模生産者を中心に「ナチュラル・シャンパーニュ」と呼ばれる、畑・醸造・瓶詰における人為操作を最小限にするスタイルへと変化があり、今や、シャンパーニュの価値は“共感”や“哲学”へと変わっているように思います。

シャンパーニュの価格も時代の流れにより変化しています。以前、ある古本屋さんで手にした1982年に発行された「ワインと料理」という本の中に、「ワイン小売標準値段一覧」という表があり、当時の価格(昭和56年10月末現在)が記載されています。そこに、ポメリー5,000円、ドン・ペリニョン10,000円、ランソン4,500円とあるのには驚きました。

ブルゴーニュやボルドーのワインと比較すると、現在の価格との違いは小さいように感じますが、それでも今よりはるかにコストが低いことがわかります。その時代のワインは今どのくらいの価値があることでしょう…

時代と共に、シャンパーニュの造り方、味わい、価値観などが移り変わってきましたが、時代が変わっても1本のボトルが語る物語は永遠に古びることなく、「ヴィンテージが語る静寂な時間」と向き合った時こそ、シャンパーニュの偉大さやその価値がわかるのだと思います。

皆さまが素敵なシャンパーニュに出逢えますように!